事例のご紹介
任意後見の相談から始まった、死後の備え
任意後見の相談から始まった、死後の備え
始まりは、司法書士会の無料電話相談でした。
「将来、認知症になったときに備えて、任意後見について相談したい」とのお話を受け、実際に面会して詳しくお話を伺うことになりました。
ところが、お話を伺っていくうちに、相談者が心配されているのは、認知症のことだけでなく、ご自身が亡くなった後のこと、特に身の回りの片付けや必要な手続を誰に任せればよいのか、今住んでいる家が空き家になってしまうことだと分かりました。
そこで、任意後見契約だけでは、亡くなった後の片付けや各種手続に対応することはできないため、死後事務委任契約などを組み合わせて備える方法があることをご説明しました。
また、任意後見契約は、判断能力が低下した後の生活や財産管理を支えるためのものであり、亡くなった後に財産を誰に引き継がせるかを決めることはできません。そのため、ご自身の希望に沿って財産を引き継ぐには、遺言書を作成しておくことも大切です。
相談者は生涯おひとりで生活されてきたため相続人となるのは、兄弟姉妹や甥・姪の方々でした。しかし、親交があるのは遠方のおひとりだけで、ご自身の財産をどのように引き継いでもらうかについて、悩んでおられました。
当初は、不動産を売却しその代金を京都市が行う事業のうち、ご自身が希望する事業に役立ててもらうことを考えられました。司法書士も何度か一緒に京都市へ相談に伺い、実現する方法を探りました。
しかし、寄附した財産を特定の事業にピンポイントで使ってもらうことは難しく、思い描いていた形での遺贈は、なかなか実現できそうにありませんでした。
話が壁にぶつかるなか、となりに住む、昔からよく知っている女性にご自身の考えを話してみたところ、不動産を引き継ぎたいとの申し出がありました。
実は、その女性も、昔からよく知るその建物に特別な思い入れを持っておられました。相談者にとって大切な不動産を、単に処分するのではなく、その価値や思い出を理解してくれる方に引き継いでもらう。そんな道が見えてきました。
そこで、遺言によって、預貯金は親交のある甥に相続させ、土地と建物はその女性に遺贈することにしました。
さらに、亡くなった後の片付けの手配や各種手続についても、当初は司法書士が引き受ける予定でしたが、その女性から、不動産を引き継がせてもらう代わりに、死後の事務も自分が引き受けたいとの提案がありました。
相談者にとっては、財産を託す相手が、亡くなった後のことまで引き受けてくれるという、心強い申し出でした。こうして、死後事務委任契約も締結することになりました。
最初の相談から約8か月。相談者の希望を一つずつ確認し、関係者とも話を重ねながら、遺言書、任意後見契約、死後事務委任契約など、必要な各契約の公正証書を完成させることができました。
8か月という時間は決して短くありません。しかし、当初考えていた方法が難しくなっても、すぐに結論を出すのではなく、相談者の思いや関係者の事情を踏まえて、納得できる方法を探し続けたからこそ、相談者にとっても、周囲の方々にとっても、納得できる内容にたどり着くことができたのだと思います。
この事例を通じて、司法書士として改めて感じたことがあります。
相談を受けたとき、制度の説明をして、契約書を作成すれば、それで仕事が終わるわけではありません。ご本人が何を心配し、何を大切にし、将来どのような形で安心を得たいと願っておられるのか。その思いを理解し、実現できる方法を一緒に考えることも、私たちの大切な役割です。
時間がかかっても、丁寧に考え、関係者の思いにも目を向けながら、その方にとって本当に納得できるものを作り上げていく。このことが大切だと感じた事例でした。